理事長所信


第64代理事長
三宅 貴之

【はじめに】

1949年9月3日、終戦後の混乱が続く我が国において、日本経済の正しき発展と世界平和の実現に向け、戦後復興を成し遂げる想いで日本最初の青年会議所(東京青年会議所の前身東京商工会議所)が設立されました。その設立趣意書の中に「新日本の再建は我々青年の仕事である」と記されています。国を想い、自らの意思で立ち上がった青年たちがいたのです。その活動は全国に広がり、それぞれの想いを70年以上に亘って奏で続けてまいりました。現在の日本は、人口減少・社会保障問題をはじめとする社会課題に加え、新型コロナウイルス感染症の蔓延に端を発した経済問題も加わり、戦後の焼け野原とは状況が異なるものの、未曽有の国難の中にあります。この状況下において、今、青年会議所は何ができるのでしょうか。社会が危機的状況に陥っている今だからこそ、我々に必要なのは、創始の想いと同じく英知と勇気と情熱を持って青年らしく行動し、我々自身がまちの希望となり、未来を切り拓いていくことではないでしょうか。いつの時代でも、未来を描き、仲間を集め、自分たちの可能性を信じて率先して困難に立ち向かい、行動を起こしていくのは我々青年なのです。とくに、進み続ける超高齢社会に伴う老々介護、我々が守らなければならない未来であるはずの子どもたちの貧困や虐待などの社会問題は、家庭内の問題として扱われてしまうことが多く、周りが気づいたときには、手遅れになっていることも少なくありません。このような問題は、どれだけ社会保障に関する法律や制度を整備しても改善し難い状況が続いています。さらに、人口減少により2050年には1人の65歳以上の高齢者を1.2人の就業者が支えることになり、社会保障制度自体の根幹も盤石ではありません。しかし、これらの問題は、本当に社会保障制度だけの問題でしょうか。その原因は、社会保障制度自体だけではなく、物質的に豊かになり、あらゆるものの利便性が高まった一方で、人間関係の希薄化が進み、地域間での繋がりが脆弱になったために起きている問題だと考えます。明るい豊かな社会の実現のためには、子どもに限らず隣人同士がお互いを知り、「人と人」「人と地域」「地域と地域」の連携を強め、日本人が大切にしてきた想いやりともいえる互助の精神を高め、諸問題に取り組んでいく必要があります。互助の精神とは自分のことだけではなく、他人を思いやり助け合うことです。この地域にも様々な価値観を持った人々が住み暮らしています。公益社団法人小田原青年会議所(以下、小田原青年会議所)にも様々な価値観を持ったメンバーが在籍しています。他人を助け合うことで、人のためになり、人のためになれば、街や地域が良くなります。2021年は延期されたオリンピック・パラリンピック東京大会の開催が控えており、同大会は確実に人々の希望の灯となります。その灯がさらに輝き続けるために、まずは私たちが住み暮らす地域の人々が希望を持ち続けられる社会を構築する必要があります。各人が協力し合い、奏で合うことで社会に混在する問題を解決し、希望に充ちた社会の実現を目指します。

【地域】

我々の活動地域である小田原・箱根・真鶴・湯河原は地理的には海と山に囲まれ、豊かな自然と風光明媚な街並みを形成しており、多くの観光客に訪れて頂きました。小田原青年会議所も設立当時から先輩諸氏により時代に合った地域の魅力創出に向けた運動を展開してまいりました。しかしながら、私たちがこの強みをどれだけ活用し、発信出来ているのでしょうか。コロナ禍を経験した我々は以前とは異なる価値観の下、新たな魅力を創出していかなければなりません。今までと同じように歴史・文化・伝統をはじめとするモノ・ コトに持続的な磨きを掛けるだけでなく、異業種が集まり、情熱を持った青年の集まりである小田原青年会議所だからこそ、地域の様々な方々との懸け橋となり、モノ・ コトといった表層に捉われることなく、本質は何かを自問し、そこに付加価値や新たにデザインした価値観の創造に向け議論を促していくことで、コロナ禍以前には無かったこの地域の新たな魅力を創出します。さらに小田原青年会議所は国際青年会議所(JCI)に所属しており、その規模は世界で115の国と地域に国家青年会議所があり、約15万3千人のメンバーが所属している国際機関です。世界には多様な課題が山積しており、解決には1カ国の力のみならず、複数の国との協力が必要不可欠です。そこで我々は国家間の懸け橋となるべく民間外交の担い手としても活動を行っております。問題解決の一つの方法としてJCI主催による「アジア太平洋エリア会議(ASPAC)」や「世界会議」といった国際会議や公益社団法人日本青年会議所主催による将来の国や地域のリーダーである会頭候補者が集い、リーダー研修を行う「国際アカデミー」などがあります。私たちは昨年、「国際アカデミー」の主管に向け、誘致活動を行うことを決議いたしました。2010年に全国会員大会を小田原の地で開催し、地域の魅力を国内へ強力に発信しました。次のステージとして、世界115の国や地域、日本中から次期リーダーが集まる「国際アカデミー」の主管を好機と捉え、小田原・箱根・真鶴・湯河原の地域の良さをまずはメンバーがより理解を深め、さらに世界にこの地域を発信できるように準備してまいります。

【教育】

子ども達に豊かな社会を残してあげたい。これは多くの親の共通した想いです。 では、豊かな社会とはなんでしょうか。豊かさとは何かと10人に問えば、10通りの答えが返ってきます。私は、彼ら彼女らの未来において、多くの選択肢がある状態が豊かな社会だと考えます。現在、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)といった技術の発達によりグローバル化や産業構造は大きく変化し、急速な社会変革の時代を迎えております。それに伴い、学校教育においても学習要綱が変更され、小学校での外国語やプログラミングといった授業が取り入れられ始めました。これから求められる人間とはどうあるべきなのか。それは一人ひとりが将来の持続可能な社会の担い手として、多様な価値観を認め、多角的考察力を用い新たな価値を生み出せる人ではないでしょうか。それには知識だけでは不十分であり、多くの仲間と目的達成に向けて、仲間の視点から捉えた意見を理解し、自分の意見との整合性を取り、協力しながら行動をし、失敗したときには再び共に何が原因なのかを考え、誠実に行動する習慣をつける必要があります。この様に考える中、我々、青年会議所ができることは何なのか、自問自答し、地域の皆様の協力を得ながら、この先も急速な変化を辿る未来を生き抜く子ども達が多くの選択肢を持てる人になれるように取り組んで参ります。また、我々、小田原青年会議所は2019年度に災害時における相互協力協定を一市三町の行政・社会福祉協議会と締結しました。本年は東日本大震災発災から10年が経ちますが、当時の記憶は誰しもが忘れられないはずです。あの時、日本人は互いに励ましあい、復興に向けて一致団結し、極難を乗り越えようと行動を起こしました。そして、この10年の間にも大きな地震や水害といった災害は各地で繰り返し発災しており、さらに昨年は新型コロナウイルス感染症も重なり、新たな形での防災・減災が求められています。しかしながら、人類は過去の経験から学ぶという非常に尊い能力が備わっています。来たる災害に対し、地域の歴史など先人たちの知恵を学び継承することで、地域住民一体となって備えていくことのできる取り組みを行って参ります。

【人財】

小田原青年会議所は60年以上に亘り地域や社会で活躍するリーダーを輩出してきました。青年会議所は、明るい豊かな社会の実現に向けて、同じ志を抱き、共に活動する正会員一人ひとりの魅力が集結した団体です。今後もそんな魅力が集結した団体であり続けるためにも、共に活動する仲間を増やすことが重要です。40歳までしか在籍できない青年会議所では、何もせずに時が経てば自ずと会員数は減少します。在籍している正会員全員が、会員拡大をしなければならない理由を理解し、当事者意識を持って行動に移していき、持続可能な組織へと変貌を遂げる必要があります。共感を持つ正会員が増えれば、運動は推進力を増し、地域に広がって輪も大きくなり、我々の想いはまちの中に派生していきます。この広がり続ける輪を常に増やし大きくしていくことこそが、我々の運動の原点であると考えます。そして、私たちの唱和するJCI Missionには「より良い変化をもたらす力を青年に与えるために、発展・成長の機会を提供すること」とあります。私が小田原青年会議所に入会した時には、5年以上の在籍や10年以上在籍している会員が多くいましたが、現在は平均在籍年数3年強と言われています。「人は人でしか磨かれない」「人がまちを創る」という原則に立ち戻り、入会後は所属委員会の垣根を越え、積極的に事業構築に関与することで、在籍年数が短くとも青年会議所運動をすることで自分は地域の役に立っていると実感するだけでなく、自らの修練となり、その学びは小田原青年会議所が運動をする推進力になり、会員自身のプライベートや会社での日常生活にも活かされると信じています。さらに、私たちは、青年会議所に入会した後の活動で、青年会議所に入会したメリットを知ります。何をやっているのか外からは見えない団体に、魅力を感じることはできません。小田原青年会議所が様々な事業を計画していても、参加者が少なければ、それは伝える先を失い、意味を成しません。情報過多社会のなかで、ホームページやSNSといった情報を発信するツールは世の中に数多く存在します。大切なことは、どのツールを使うのではなく、必要としている人のところに必要な時に届くから価値があります。地域のニーズに見合った、欲しくなる情報を発信していくことでさらに私たちの運動の効果を最大限に高めていきましょう。そして得られた知識や学びを、地域住民や関係諸団体の皆様に親しみやすく発信をしていくことで、私たちが行う運動を広く伝播していくとともに、賛同いただける方が増えていくと確信しています。

【組織】

青年会議所の特徴の1つとして、多くの会議を重ねていくことがあります。理事会や委員会に代表される会議では、皆で意見を出し、協議をして一つの形にしていきます。価値観の異なるメンバーが効率よく協議しやすいように、JCプロトコルというルールがあります。しかし平均在籍年数が3年強と少なくなっている中、ルールに不慣れなメンバーが多くなっており、プロトコルを浸透させるだけではなく、全会員で助け合う雰囲気づくりをしてまいります。また、会議の仕方も時代に合わせ、全てを集合形式で行うのではなく、ITを活用してまいります。2021年、小田原青年会議所は公益社団法人となって8年目を迎えます。公益社団法人となってからの検証を始めるとともに、法人格の見直しも含め、小田原青年会議所がメンバーや地域の人から信頼される組織への礎を築きます。個性豊かで高い論理的思考をできる会員が同じ思いを共有し、互いの不足を補いながら同じ目的に向かい、小田原青年会議所独自の協奏曲を奏でられるよう、メンバー一丸となり、進んでいきましょう。

【結びに】

音楽の楽曲スタイルに協奏曲という手法があります。その歴史は古く、様々に発展してきましたが、主に複数の独奏楽器を用い、時にそれぞれの楽器の特性を活かしたソロ演奏も織り交ぜつつ、一つの素晴らしい成果としての合奏を行うものです。私は、『協奏』とは青年会議所活動そのものだと考えます。「協」とは協力、協議、協調とあるように、力を合わせることです。「奏」とは奏上、演奏、奏功とあるように、意見を出す、自分で音を出す、成し遂げることです。つまり、『協奏』とは、自分ごととして物事を捉え、多くの人と想いを通わせ、力を合わせて、オーケストラのように物事を推し進め、成し遂げることです。オーケストラでは演奏会のために多くの練習を積み重ねます。青年会議所も同じです。一つの事業を実現するために、会員同士が集まり、何度も議論を交わします。この議論の過程において、時には温かい助言をもらい、真剣に叱ってくれる先輩がいます。自分自身の未熟さを知るとともに、自分の不足を補ってくれる仲間がいます。私は、この団体から公私ともに様々な経験と自信の糧をいただきました。人生は一度限りのものですが、人は何歳になっても成長できると信じています。今は私たちの周りには問題が山積しています。しかし、地域の皆様や仲間と、ともに音を奏でられたなら、きっと解決の糸口が見つかり、明るい豊かな社会を実現することができると私は確信しています。私は小田原青年会議所の精神として受け継がれた襷を受け取る者として、歴史と伝統を重んじ、責任と自覚を持ち、理事長職をお預かりし、一身を投げ打って全うすることをお誓い申し上げ、公益社団法人小田原青年会議所 2021年度 第64代 理事長としての所信とさせていただきます。